これからの治療を考えるために大切な治療戦略
近年、がん医療は大きく進化しています。そのひとつが、「遺伝子パネル検査」という新しい技術です。これは、がん細胞のもつ遺伝子の異常を詳しく調べ、その人だけに合った“個別化医療”を見つける鍵になります。
遺伝子変異が治療と、どのように関係するのか?
ヒトの体は、約2万種類もの遺伝子情報によって細胞がコントロールされています。
がんは、これらの遺伝子の中に「変異(エラー)」が起き、細胞が異常な増殖を始めることで発生します。
この遺伝子のエラーにはいくつかのタイプがあります。
・EGFR変異(肺がんなどで多い)
・KRAS変異(大腸がんや膵臓がんに関連)
・BRCA1/2変異(乳がん・卵巣がんなどに関係)
・HER2増幅(乳がんなどに関係)
こうした変異の種類によって、効きやすい薬が異なるため、これを調べることが「次の治療」を考えるうえでとても重要になります。
変異が見つかったときは
遺伝子パネル検査によって「遺伝子の変異が見つかりました」と言われると、戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。
けれども、これは「がんの原因となる遺伝子が明らかになった」、「治療を選ぶための地図の一部が明らかになった」という意味です。
そして、その際に大切なのは、以下の3点を冷静に確認することです。
1.その遺伝子異常に合った薬があるか?(分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など)
2.その薬は保険適用か、自由診療か?
3.国内外の治験や臨床試験に該当するか?
これらの情報は、主治医だけでなく、セカンドオピニオンや専門施設を活用することで情報の幅が広がる可能性があります。
セカンドオピニオンのすすめ
セカンドオピニオンとは、「主治医以外の医師の意見を聞く」ことです。治療方針に納得できていないときだけでなく、現状の確認や、新たな選択肢を探したいときに、非常に有効です。
特に遺伝子変異が見つかったケースでは、
・専門のがんゲノム医療拠点病院(全国に設置)
・臨床試験の情報に精通した大学病院
・分子標的薬を扱う自由診療クリニック
などに相談することで、見えていなかった治療法や選択肢が発見されることがあります。
セカンドオピニオンを受ける際には、あなたが「これから何を大切に生きていくのか」を整理して相談に行くと良いでしょう。
※主治医に申し出るのが不安という方もいますが、現在では多くの医療機関が「セカンドオピニオンは患者の当然の権利」として認識していますので、各医療機関にも円滑に進めるためのサポート体制が整っています。
治療戦略とは、「何を目指すか」を考えること
がん治療の地図やゴールは一人ひとり違います。
「病気をできるだけ進ませない」
「体力を維持して過ごす時間を大切にしたい」
「副作用を最小限にして、生活の質を守りたい」
「最期まで自分らしく過ごしたい」
こうした想いに応じて、遺伝子情報をどう活かすかが決まっていきます。たとえ分子標的薬や免疫療法が使えなかったとしても、漢方や栄養療法、心のケアなどを含む“統合的アプローチで体と心のバランスを整えることは、生活の質にとって非常に重要です。
「正解」はひとつではない
これからのがん治療は、「これが絶対に正しい」という正解があるわけではないと私たちは考えます。
正しい情報の提供と、一人ひとりに合った治療法の選択とが求められる時代と考えます。
遺伝子検査で得た情報は、「あなたの体に、いま何が起きているのか」を知るための貴重な情報です。
それをもとに、自分自身が納得できる道を選ぶことこそが、あなたにとっての“最善の治療”になります。
そのためにセカンドオピニオンを活用されることも選択肢の一つです。
情報は、希望につながると信じています
遺伝子変異が見つかると、不安や混乱もあるかもしれません。時に怖いと感じるかもしれません。
でも、それは「選択肢がなくなった」ということではありません。
むしろ「次の可能性が見えてきた」証でもあります。
遺伝子パネル検査後の相談、セカンドオピニオンの対応、補完治療のご提案まで、患者さんの意思を大切にしながら、治療戦略を一緒に立てていきたいと考えています。
あなたが「自分らしく、納得して治療を受ける」ことができるように。
その一歩を、私たちは全力で支えます。