漢方治療のちから ― がん治療と日常の健康を支える選択肢
「がん」と診断されたとき、多くの方がまず標準的な治療法である手術・抗がん剤・放射線治療を思い浮かべるでしょう。近年は遺伝子パネル検査に基づいた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい治療も導入され、選択肢は広がっています。しかし、治療が進むにつれて体力の低下や副作用、生活の質(QOL)の低下が問題となることも少なくありません。そこで私たちが注目しているのが「漢方治療」です。
がん治療における漢方の役割
漢方薬は、直接がんを小さくする薬ではありません。ですが、体のバランスを整え、治療の副作用を和らげ、体力を維持することに大きな力を発揮します。たとえば抗がん剤治療で起こりやすい「吐き気」、「食欲低下」、「手足のしびれ」などに対して、漢方が補助的に用いられることで、治療を続けやすくなるケースがあります。また、免疫の働きを支え、感染症にかかりにくくすることも期待されています。
緩和ケアにおける漢方
がんが進行し、緩和ケアを考える段階でも漢方は有用です。痛みや倦怠感、不眠、便秘など、薬でコントロールしきれない不快な症状を和らげるサポートに役立ちます。「もう治療ができない」ではなく、「生活を支える」ために漢方を取り入れることで、残された時間をより穏やかに過ごせる方も少なくありません。
がん以外の方にも役立つ漢方
実は漢方は、がんの患者さんだけでなく、日常の体調管理にも活用されています。冷え性や疲労感、胃腸の不調、更年期障害など、病院の検査では異常が見つからないけれどつらい…。
そんな「未病」の段階でこそ漢方が役立ちます。つまり、漢方はがん治療を受けている方に限らず、多くの人にとって身近で実用的な選択肢なのです。
なぜ今、漢方が必要とされるのか
現代医療は進歩していますが、全ての症状に対応できるわけではありません。
がんに対する分子標的薬や免疫療法も、副作用が伴います。その「隙間」を埋めるように、心と体を全体的に支える漢方が注目されています。しかし、日本において漢方の存在はまだ十分に知られていないのが現状です。実際には西洋医学と併用できるケースが多く、医師の指導のもとで取り入れることが安全かつ有効です。
認知度を高めるために
「漢方は効くのかどうか分からない」、「民間療法では?」と感じる方も少なくありません。
ですが、保険適用のある処方薬として医療現場で使われている漢方薬も多く存在します。
がん治療の補助としてのエビデンスも少しずつ蓄積されており、正しく理解し、上手に取り入れることが大切です。
漢方は「がんを治す薬」ではなく、「がんと共に生きる体を支える薬」と言えるかもしれません。そしてその可能性は、がん患者さんだけではなく、日々の生活に悩みや不調を抱えるすべての人に広がっています。